胃がんの治療について
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胃がんの基礎知識
胃の場所とはたらき
胃はみぞおちの奥にあって、胃液と胃の運動で食物を砕き粥状してから十二指腸に送り出す働きがあります。
消化吸収はおもに小腸、大腸で行われます。
(胃がん治療ガイドラインの解説第2版)
胃がんの地域性
特に胃がんは北日本の、日本海側に多く、秋田県が男女ともに胃がん死亡率が高いです。
秋田県は男女ともに多い : 75歳未満年齢調整死亡率(人口10万対)
なぜ胃がんになるのか
胃がんの原因として、酒、タバコ以外に、塩分摂取量が関与していると言われていますが
ピロリ菌に感染することで胃がんになりやすくなると判明しています。
胃がんの発がん因子
・喫煙 ・多量の飲酒 ・多量の塩分
・ヘリコバクターピロリ菌など → 1994年【WHO】ピロリ菌が胃がんの発がん因子であることを発表
ヘリコバクターピロリ菌とは
- 胃に生息するらせん型の細菌
- 慢性胃炎を起こして、胃粘膜細胞にがんが生じる
- 日本人胃がんの99%はピロリ菌感染胃から発生
- だいたい5歳くらいには感染して、何十年もかけてがんが発生することから、若いうちから除菌して胃炎を予防しなければならない
- 除菌することで胃がんが予防できる
- 先進的な取り組みとして、秋田県では由利本荘市、にかほ市で中学生の除菌が進められている
- 注意しなくていはいけないのは、除菌をしたら絶対に胃がんにならないというわけでは無いということ
- 定期的に検診を受ける必要がある
胃炎
胃がんの発生と進展
胃がんは最も内側の胃粘膜から発生し、広く・深く成長していきます。
粘膜下層まで深くなると、血管やリンパ管の中にも入り込みます。
血流に乗って他の臓器に転移したり、リンパの流れに乗ってリンパ節転移を起こしたりします。
さらに深くなると、固有筋層から漿膜まで食い破っていき、大腸や膵臓などとなりにある臓器まで食いついていきます(=浸潤:しんじゅんといいます)。
リンパ節転移
がんがリンパ管に入ると、近くから遠くのリンパ節にがんが飛んでいき、これをリンパ節転移と言います。
手術では転移が起きる可能性があるリンパ節を広めに取ってきます。
図の赤と青の胃の近くのリンパ節は取ることができますが、黄色のリンパ節まで転移すると全身に広がってしまい取りきれません。
遠隔転移
遠くの臓器へがんが血液の流れに乗って飛んで行くのを、血行性転移と言います。
代表的なものが、肝転移といって肝臓へ転移することです。さらに肺や脳に転移することもあります。
そのほかがんが胃の壁を食い破って、おなかのなか中に広がってしまう腹膜播種転移があります。
腸の壁に転移すると狭くなって腸閉塞になることもあります。
だいたいこれらの遠隔転移とは、何か所にも多発していることが多く、手術で取り切るのは難しいです。この場合の主な治療は抗がん剤治療になります。
胃がんの診断と治療
・胃がんの診断方法 ・胃がん取り扱い規約 と 治療ガイドライン
・胃がんの病期(ステージ)=進行度 ・胃がんの治療方針(ガイドライン) ・内視鏡治療
・胃がんの手術治療 ・リンパ節郭清(かくせい) ・幽門側胃切除術(出口側2/3切除)
・胃全摘術 ・噴門側胃切除術(入口側1/3切除) ・術前検査をまとめ治療方針を決定
・開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術腹手術 ・最新の治療:ロボット手術(ダビンチ)
・切除不能胃がんの治療 ・胃切除術前後の流れ ・胃切除術後の合併症
・胃切除後の障害について ・術後病理結果と最終的なステージ決定
・再発のチェックを術後5年間行います ・切除不能または再発胃がんの抗がん剤治療
胃がんの診断方法
胃がんが疑われる場合の検査です。
胃カメラは、胃がんがあるかどうか、見た目にどうかという検査です。
生検:つまんで癌があるかの検査も同時に行います。
CT検査ではがんの広がり、リンパ節やほかの臓器に転移しているか、などを見ます。
胃がん取り扱い規約 と 治療ガイドライン
胃がんの治療を進めていくうえで、どのくらいの進行度であるかなど、医療者のあいだで共通の認識が必要です。
深さについて、リンパ節の転移度、遠隔転移についてなど共通言語を現したのが胃がん取り扱い規約です。その進行度に基づいて、これまでのデータから必要な治療について書いてあるのが、胃がん治療ガイドラインです。
基本的にこのガイドラインに則って治療をすることで、全国どこででも同じような治療を受けることができるようになっています。
胃がんの病期(ステージ)=進行度
胃がんの壁の深さと、リンパ節転移個数、ほかの臓器へ転移しているかで進み具合=ステージが決まります。
ステージごとにどのような治療が適しているか決められているので、ステージを予想するのは非常に大切です。
胃がんの治療方針(ガイドライン)
大まかに言って粘膜だけならカメラで治療、さらに深く行ってカメラで無理ならば手術となります。
早期がんと一部の進行がんなら腹腔鏡、進行がんでは開腹手術を行います。
更に進行していて手術では取り切れない場合は抗がん剤治療となります。
内視鏡治療
内視鏡治療は消化器内科で行っております。
胃カメラで見ながら粘膜を浮き上がらせて、がんのある粘膜を切除する方法で、手術で胃を切らなくても済む、良い治療ですが浅い早期の胃癌にのみ適用されます。
胃潰瘍を伴っていて浮き上がらないと行えません。
顕微鏡検査を行い、予想より深くいっていた場合、がんが残ったり、リンパ節転移の可能性があるため、追加で胃切除する手術が必要になることがあります。
取り切れていなかった場合、手術を行う
胃がんの手術治療 : 大きく分けて3つの方法
胃がんの手術は、場所と進行度によって何種類かの方法があります。
胃の出口である幽門に近いところにあるがんには、出口側2/3を取る幽門側胃切除を行います。
胃がんは出口側にできやすいで最も多い手術です。
胃の真ん中または全体に広がっている場合は胃全摘を行います。
噴門という胃の入り口付近のがんには噴門側胃切除を行います。
リンパ節郭清(かくせい)
胃とともに、転移しやすいリンパ節をまとめて取ることをリンパ節郭清と言います。
がんの場所によって胃を切る範囲と同様、リンパ節を郭清する範囲も決められています。
下の図は、先ほどの図の胃をひっくり返したものです。
こうすると胃の裏側に膵臓があり、膵臓に張り付いた黄色とピンクのリンパ節が見えます。
そのリンパ節は胃の壁に沿った水色のリンパ節の次に転移しやすいところです。
がんが深くなるとリンパ節転移する確率が上がるので、より広い範囲のリンパ節を取ってくる必要があります。
近くに転移していると考えるならば、その先のリンパ節も転移があるかもしれないから予防的に取っておこうという考えです。
がんの場所によって転移しやすいリンパ節が変わってくるので取る範囲も少し変わってきます。
早期のがんであればリンパ節転移があっても近いところだけということがほとんどなので、取る範囲を縮小することができます。
幽門側胃切除術(出口側2/3切除)
胃がんの手術で最も多いのは、胃の出口側2/3を取る幽門側胃切除です。
食べ物や消化液を流れるようにつなぎなおすことを再建といいます。
食べ物の通り道を作るため残った胃と十二指腸をつなぎます(ビルロートI法)。
がんの位置によっては残った胃が小さくなって、十二指腸まで届かなくなるため、胃と小腸をつなぐ方法となることがあります(ビルロートII法やルーワイ法)。
胃全摘術
胃の入口側の進行癌や胃全体に広がる大きな癌などには、胃全体を取る胃全摘術を行います。
食道と小腸をつなぎ食べ物の通り道を作り、十二指腸から出てくる消化液を食べ物に混ぜるための通り道を作るため、つなぐところが2か所になります。
噴門側胃切除術(入口側1/3切除)
胃の入口側の早期癌には、入口側1/3切除する噴門側胃切除を行います。
胃酸の逆流による逆流性食道炎が多いため、一時期あまり行われなくなっていました。
逆流を防止する逆流防止弁を手術で作ることで、逆流性食道炎を減らすことが可能になり、当院では積極的に行うようになっています。
当院でのデータを見ると、術後の体重減少や生活の質の悪化が胃全摘に比べてやや少ないという結果です。
術前検査をまとめ治療方針を決定(カンファレンス)
術前の検査をまとめ、ガイドラインに基づいて治療方針を決定します。
これを当院では、カンファレンスという会議を行って外科医と内科医で一緒に検討しています。
これはある患者さんの実際の写真ですが、胃カメラとバリウム検査から胃の入り口である噴門の近くの
壁の変形が起きるほど深くまで達した進行がんであることが予想されます。また、CTから胃がんの近くに複数のリンパ節転移が疑われるしこりがあります。
これらの結果から、胃上部の進行胃がんで、専門的になりますがT3,N2,M0,ステージIIIと診断されます。
よって、リンパ節を取りきめ通り取る、開腹の胃全摘が最適な治療方針となります。
開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術
従来みぞおちから臍までの開腹手術が行われてきました。
20年前くらいから5-10mmほどの穴をあけて行う腹腔鏡手術が普及してきました。当院でもこれまで400人以上の方が腹腔鏡での胃切除を受けられています。
腹腔鏡手術では深いところのリンパ節をきれいに取るのに技術が必要で、早期がんと一部の進行がんに行われています。リンパ節転移が多数あるような進行がんでは開腹手術となります。
腹腔鏡やロボットでは傷が小さく、手術後の回復が早くて翌日歩ける人がほとんどです。
早期がんでは開腹手術と比べて手術成績(=きちんと治るか)も同じであることが証明されています。
最新の治療:ロボット手術(ダビンチ)
腹腔鏡手術は患者さんの負担は少ないですが、再発しない、合併症が少ないという‘’きちんと治る手術‘’を行うためには、大変な技術とチームワークが必要です。
このような困難である点を克服し、より精密に手術を行うために開発されたのがロボット手術です。
ロボット手術と言っても実際に操作を行うのは外科医であり、その操作を手助けするものです。
少し離れたところから執刀医が患者さんにつながれたロボットを操作を行います。患者さんの脇には、2名の外科医がおり、手術の助手を行います。
腹腔鏡に比べてロボットが優れている点は以下の通りです。
①開腹に比べて拡大して3Dで見えるため、はがすべき層などが非常にわかりやすい
②切る、はがす、縫うなどの細かな操作が手振れ補正機能により腹腔鏡以上にできる
③鉗子(かんし)の先が自由に曲がるため、ほかの臓器を乗り越えて手術ができる
=他の臓器を傷つけないで奥にあるリンパ節がきれいに取ってこれる
胃がんのロボット手術はこれまでの腹腔鏡手術に比べて合併症が少ないという結果が出て
2018年から保険で手術が受けることが出来るようになり、全国的に広まってきています。
2020年には全国の胃がん手術の約5%がロボットで行われており、年々増加傾向です。
当院でも2022年10月の新病院移転時に手術支援ロボット(ダビンチ)を導入しました。
2023年5月からロボット胃切除を保険診療で開始しましたので、ロボット手術を希望する方が、県外の病院へ行く必要が無くなりました。
今後も早期胃がんを中心にロボット手術を行っていく方針です。
切除不能胃がんの治療
術前の検査でほとんどの方が進行度の予測ができますが、手術してみると予想よりも進行していてがんが取り切れないことがあります。
周りの臓器へがんが食いついている状態=浸潤や、おなかの中に癌がばらまかれた状態=腹膜播種などがある場合は、そのままおなかを閉じることや、胃から小腸にバイパスを行います。がんが残ってしまうような状態で無理をして胃を取ることは、ガイドラインで推奨されていません。胃を切ってしまうと、その後の抗がん剤治療が順調に進められなくなる可能性が高いためです。最近ではがんが縮小して再度手術を行うことも増えてきています。
胃切除術前後の流れ
胃切除術の流れです。
術前の外来から、術後の肺炎予防のために呼吸リハビリを行います。
入院後、前日夜まで食事をとりますが、当日は絶食です。
無事に手術が終わったらリハビリです。翌日から歩行開始です。
水分や栄養が足りないため点滴を行い、徐々に減らしていきます。
はじめは水分から開始し、徐々におかゆが濃くなっていきます。
胃が小さくなる(または胃が無くなる)ので1回に多くは食べられません。
必要なエネルギーをとるために、おやつ2回をいれて5回食事をとるようにしてもらいます。
7日目くらいから退院可能な状態となりますが、当院では12日目を退院目標としています。
胃切除術後の合併症
合併症は、通常の手術を行っていても、起きてしまう悪いことで、いわゆる医療ミスとは違います。
胃切除後の障害について
(1)体重減少、筋力低下
ほとんどの人がなる。食事を5回に分けてゆっくり食べる。体を動かす。
(2)ダンピング症状
胃の術後、高濃度の食事が貯まるところが無くなり、直接急に腸に流れ込むために、起きる不快な症状。
①早期ダンピング=食後すぐあとに起こる
血糖値が急に上昇することで、冷や汗やめまい、脱力感などが起こる。
対策:糖分を多く含む食事や甘みの強い流動食を控えることが予防になる。
②後期ダンピング=2-3時間後に起こる
腸で急速に糖質が吸収されて、インスリン(血糖を下げるホルモン)が大量に分泌し、
逆に血糖が下がり過ぎてしまうことで起こる。めまいや脱力感、発汗、震えなどの症状。
対策:症状が起きそうだと感じたらすぐにアメなどをなめる。糖尿病薬のボグリボースも有効。
(3)逆流性食道炎
胃の入り口(噴門)の切除後、胃液、腸液、胆汁などの苦い消化液が逆流し、胸やけ・痛みが起きる。
対策:夕食は就寝前2〜4時間までにとり、頭を上げて寝る。脂肪の多い食事は控える。膵酵素阻害剤。
(4)貧血
胃切除、特に全摘後は、赤血球をつくるために必要な鉄分やビタミンB12の吸収が悪くなって、
鉄欠乏性貧血やビタミンB12欠乏性貧血になる(数年後)。
対策:鉄剤内服、ビタミンB12注射
(5)骨粗しょう症
胃切除後は、カルシウムの吸収が悪く、骨が弱く骨折しやすくなる。
対策:必要に応じてカルシウム剤やビタミンD製剤を服用。筋力を強化するための運動も大切。
(6)下痢・便秘
脂肪などの消化吸収能の低下、胃酸分泌減少による腸内細菌の種類の変化、食物や水分が小腸内に急速に流れ込むことで腸運動が異常に活発化、そのために栄養が腸から体内へうまく吸収されないことなどによって起こりやすくなる。
対策:ゆっくり食べること、整腸剤
術後病理結果と最終的なステージ決定
手術後、取り出した胃の病理検査を行います。
病理検査とはホルマリン漬けにして、薄切りにし、顕微鏡で拡大してみることで、がんの深さ、リンパ節の転移などを見る検査です。
それによって最終的な、進行度=ステージが決定します。
I期ではほとんど再発が無いので、経過観察となります。
II期とIII期では再発する可能性があるので、再発予防の抗がん剤治療=術後補助化学療法を行います。
高齢であったり、術後の消耗が激しく体力的に難しい場合もあります。その時は経過観察となります。
IV期はがんが取り切れていない状態なので、抗がん剤治療を行うことになります。
手術後の抗がん剤治療は主に外科医が行っております。専門家である腫瘍内科医にも相談しながら行っていきます。
再発のチェックを術後5年間行います
術後5年間は再発の可能性があるため、3か月おきに検査を行っていきます。
ステージII、IIIでは術後補助化学療法を並行して行っていきます
途中残念ながら再発してしまった場合は、追加で治療を行います。
再発に対して手術を行うことは、難しいことが多いです。抗がん剤治療が中心となります。
切除不能または再発胃がんの抗がん剤治療
手術で取り切れない場合や再発した状態(=ステージIV)は化学療法という抗がん剤治療が中心となります。
図のように、何種類かの薬を組み合わせて治療を行っていきます。初めに採取したがん細胞から遺伝子検査を行い、その結果に応じて薬を使い分けます。一つ目の治療(=一次治療)で効果がなくなって再びがんが進行してきた場合は、次の治療、また効かなくなったら次の治療というようにして、治療を続けます。抗がん剤を切り替えて続けていくことで、何もしない場合3-6か月程度だった余命を1-2年以上に伸ばすことが可能になっています。抗がん剤というと吐き気などの副作用が心配されますが、和らげる薬も日々進歩しているので昔ほど辛さは無くなっています。また2018年にノーベル賞を取ったニボルマブのように、新しい抗がん剤がどんどん開発されています。手術で取れなかった胃がんが抗がん剤治療で小さくなって手術が可能になる場合も有ります。とにかく諦めないで治療をすることが大切です。
がんに対する抗がん剤などの積極的な治療後、再発による痛みや苦しさを取る緩和治療も進歩して、我慢して暮らすようなことは無くなってきていますので安心してください。
緩和治療を専門的に行う、緩和ケア内科での治療、入院も可能です。